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不具合に学び、再発防止に挑む。コンプレイントハンドリングで培った顧客第一の哲学

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サービス技術開発

医療を止めない。不具合情報をもとに製品の評価・調査と顧客回答を担当

現在の業務内容について教えてください。

OSP(オリンパスシンガポール)の修理部門に所属して、同社が管轄する地域のコンプレイント(不具合情報)ハンドリングと、修理センターへの技術支援を行っています。

コンプレイントハンドリングとは、お客様からいただいた不具合に関する情報の収集、記録、評価、調査、および顧客回答に至る一連のプロセスを指します。法規制によって要求されている医療製品特有の重要な業務の一つです。

上記のうち、私は東南アジア地域における、不具合情報の評価・調査と顧客回答を主に担当しており、発生した不具合の種類や頻度を定量的に整理し、東京の修理マネジメントチームをはじめ、アメリカやドイツなど、各国の市場品質チームへのフィードバックも行っています。

シンガポール、インドネシア、バングラディッシュ、スリランカ、パキスタン、アフガニスタン、ネパール、ミャンマー、フィリピン、カンボジア、ブルネイの計11カ国をカバーし、対応する案件数は平均すると年間あたり200件以上に上ります。

コンプレイントハンドリングと並行して、シンガポール国内の修理センター内で発生する技術トラブルへの対応や原価低減活動も推進してきました。また技術面以外にも、物流面や修理システムなどのトラブルにも対応しており、東京とAPAC地域のテクニカルサービスチームと連携しながら解決に向けて取り組んでいます。

また、現地のフィールドサービスエンジニアとともに、シンガポール国内の看護師や、BME(Biomedical Engineer/臨床工学技士)らに向けた、内視鏡の取り扱いに関するトレーニングを企画。修理観点で、故障に関する予防策のレクチャーを実施しています。

いまの仕事の意義、やりがいをどんなところに感じていますか?

オリンパスの製品は世界の医療現場で広く使われています。私たちのミッションは、医療を決して止めないこと。正確かつ迅速な修理を実施することで、間接的ながらも、内視鏡検査、診断、治療に対して価値を提供し、医療に貢献できていることを誇りに思っています。

また、コンプレイントハンドリングにおいてめざしているのは、世界各国の工場と連携して改善策や再発防止策を特定し、それらを医療現場や製品開発にフィードバックすること。ドクターや看護師、BMEなど、お客様の製品満足度向上と、オリンパスへの信頼獲得につながる仕事ができていることに大きなやりがいを感じています。

お客様との接点を求めて挑んだ修理の現場。活躍の舞台はシンガポールへ

入社の経緯、また入社後どのようなキャリアを歩み、どんな気づきを経てシンガポール赴任に至ったかを教えてください。

学生時代は機械工学を専攻していました。医療業界を志望するようになったきっかけは、医療工学の授業を受けたこと。中でもオリンパスを選んだのは、消化器内視鏡領域で圧倒的シェアを誇り、治療機器やエネルギーデバイスなど、幅広い分野を包括的にカバーしている点に惹かれたからでした。

入社してからの約3年間は、外科系内視鏡の新製品サービス体制の構築に携わり、修理の作業手順を定める作業標準書の作成や、修理に必要な治工具の設計や導入、導入後の各国に向けた技術トレーニングなどを担当していました。

全体を統括する立場としては、品質を担保するために、全工場で同じ修理フローを導入するのですが、技術トレーニングを実施する中で、「この治工具のここが使いにくい」「こういう治工具があれば、1個当たりの組み立て時間を30秒は短縮できる」といった声を耳にしました。若手で修理現場の経験がなかったこともあって、やはり現場に出てみないとわからないことがあると気づかされ、これが私にとって転機になりました。

修理の現場では、工場と同様のフローで検査を行いますが、使用済みの製品を扱うため、新品を組み立てる工程にはない、修理特有のメニューが存在します。そこで直面する問題や課題を深く理解するためにも、修理の現場に身を置きたいという想いが募っていきました。

また、お客様との接点がある仕事に興味があったことも現場に立ちたいと思った理由の一つ です。修理センターで働くことで、営業やフィールドエンジニアを介して、お客様により近い場所でニーズを把握し、価値を提供できると考えていました。

OSP(オリンパスシンガポール)への赴任のオファーを受けたのは、3年目が終わりを迎えるころ。業務をひと通り経験し終えた最適なタイミングでした。

赴任が決まってから、本格的に英語学習を始め、赴任者向け研修をベースに、数カ月間で現地で困らない程度の語学力を身につけました。

当時の私に課せられたミッションは、要員配置に関する問題を可視化し、それを改善すること。シンガポールでは日々のオペレーションがうまく機能していなかったため、それを正常化し、安定させることが期待されていました。

新しい環境、新しい課題。シンガポールに赴任して見えた新しい景色

シンガポールへの赴任後、どのような苦労と成果がありましたか?

私にとってコンプレイントハンドリングは初めての業務でした。しかも、私が赴任したのは2021年4月で、コロナ禍の真っ只中。感染対策のためオフィスが二つに分断され、チームリーダーと別々の職場に分かれての作業を強いられる中、言葉の壁と格闘しながら、新しい仕事をゼロから学ぶ必要がありました。

また、コンプレイントハンドリングでは、ディスポーザブル処置具製品など修理の必要がないものも含むすべての製品が対象となります。私がそれまで扱っていたのは内視鏡だけ。評価・調査を行うにはそれ以外の製品の知識も身につける必要があり、最初の3カ月ほどはひたすら勉強する毎日でした。

赴任して間もないころには、未熟さゆえに、お客様の視点に立てていない回答書を作成し、お叱りを受けるという苦い経験をしたことも。私たちに求められているのは、お役所的な回答ではなく、再発防止につながる改善策なのだと気づかされ、お客様に寄り添い切れていなかった自分を猛省しました。

修理サービスの満足度を高め、当社の信頼を守っていくためにも、評価・調査・記録に加えて、再発防止策を提案することが重要で、それこそがコンプレイントハンドリングの本質だと理解するようになりました。

よりお客様に寄り添った対応を実現するために、欧米の各拠点との認識をすり合わせるコミュニケーションも実施しました。たとえば、従来はアメリカやドイツの拠点に機器の異常現象について調査を依頼すると、「現象を確認しました」や、「お客様の使い方が原因です」といった簡潔な返答しかもらえないことがよくありました。そこで、アメリカやドイツの拠点の担当者と話し合う機会を設け、調査項目に追加してほしい内容とその理由を説明したことで、結果として、今では満足のいく調査結果を得られるようになり、迅速に顧客回答ができるようになっています。

APAC地域のシェア拡大に向けて、技術的な立場からの支援をこれからも

オリンパスシンガポールが管轄する国ごとにどのような地域差がありますか?

シンガポールは東南アジアの中で最も先進的な国だけあって医療水準が非常に高く、またフィールドエンジニアもいることから、お客様の製品の取り扱いや修理に対する理解度がとても高いと感じます。

一方、現地法人がなく代理店にサービスを任せているそれ以外の国々では、コンプレイント処理時に保証関連の問題が頻繁に発生します。たとえば、購入から1年以内の不具合を理由に無償修理を依頼されるのですが、実際に製品を評価してみると、不具合がお客様の取り扱いに起因しているケースが少なくありません。シンガポールと他国では、製品の取り扱いの習熟度に大きな差があると感じます。

また、東南アジアではよくあることですが、輸出入の法規制が国によって異なるため、物の輸送に想定以上の時間がかかることがあります。中には、輸出するだけで相当な時間が必要な国も。

シンガポールで不具合の根本原因の究明に至らなかった場合は、東京やアメリカなど他地域に送ることになるため、さらに日数がかかることになります。結果として、お客様にとって長い待ち時間が発生している状況です。医療を止めないためにも、修理のリードタイム削減や、医療従事者のトレーニングなど、まだまだやれることはたくさんあると思っています。

今後の展望を教えてください。

「修理ボリュームの増加にともない、組織の見直しが必要になってきていると感じます。今後は修理センター内の改善、とくに要員配置や工程の設計の見直しに注力していきたいです。

また、全体の進捗管理も不十分だと感じています。さまざまなデータを分析・見える化できるBI(Business Intelligence)ツールをさらに積極的に活用して、修理センター内の動きの透明性を確保することで管理業務の効率化に努めていく予定です。

東南アジア市場が今後ますます拡大することが予想される中、インドネシアやフィリピンなどの国々では、シェアを伸ばすためにセールスチームがすでに活動を開始しています。医療を止めないために、私たちもこの動きに応じて、技術的な立場からサポートを提供していくつもりです。

取材内容は2023年11月時点のものです

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