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ベトナムで製造現場の変革を主導──高い技術力を数値化・理論化し、さらなる成長へ

  • 生産技術開発・サービス技術開発

メカニカルエンジニア

現場の困り事をタイムリーに把握し、すみやかに道筋を示せるリーダーに

所属する部署での仕事内容について教えてください。

2019年からOVNC(オリンパスベトナム)に出向し、モールド製造部のマネージャーを務めています。モールドとは金型のことで、加熱して柔らかくしたプラスチックなどの素材を金型に注入し、冷やして成形する製造方法をモールド加工と言います。

私たちの部署で製造しているのは、内視鏡用処置具の部品。部品の量産に向けた立ち上げから行っており、日本から移管された金型を成形機に乗せ、生産条件などを設定していきます。OVNC内の生産で使用する部品と、青森工場向けに出荷する部品をあわせると、年間で数千万台分にものぼります。

これだけの部品を供給するためには、毎日安定的に製造を続ける必要があります。マネージャーとして、日々の生産状況を管理し、技術者としての経験を活かしてメンバーの指導や教育を行うことも私の役目。また、工場全体の原価収支管理や、品質最優先のものづくりを続けていくための職場改善や管理体制の強化などにも携わっています。

マネージャーとして、どんなことを大切にしていますか。

現場やメンバーが抱える課題を迅速に察知し、素早い判断で道筋を示すことを常に心がけています。以前、私が製造部のメンバーとして働いていたとき、上司が素早く方向性を決定し指示を出したことで、トラブルがスムーズに解決して生産活動を再開できたことがありました。マネージャーには、こうしたトラブルへの瞬時の対応能力が不可欠だと考えています。

みんなの困り事にいち早く気づくために、毎日現場に顔を出し、メンバーの仕事ぶりや表情に変化がないか見て回るようにしています。また、メンバーをまとめてくれるチームリーダーやグループリーダーとは、毎日ミーティングの時間を設けています。

OVNC全体では1,700名ほどが働いていますが、そのうち私の部署に在籍するのは160名ほど。リーダー層も含め、私を除くメンバーはすべてベトナム出身です。リーダー層の方とは基本的に日本語でコミュニケーションしていますが、重要な内容を伝える際には、通訳を活用して誤解が生じないように努めています。

当たり前を疑い、根拠を言語化。技術や技能の数値化、理論化の先に見据える組織の成長

これまでのキャリアについて教えてください。

2004年の入社後、2011年までオリンパスオプトテクノロジー(現・長野オリンパス) の製造部モールド技術グループに出向し、自由曲面プリズムレンズの金型加工を担当しました。これは当時の携帯電話のカメラ機能に使われた薄型レンズで、加工だけでなく、完成したレンズの性能をどうすれば精度高く測定できるか、という検討にも携わりました。

その後、上司とのキャリア面談で「金型設計に興味がある」と伝えたところ、希望がかなって金型設計や金型加工プログラムを担当することに。高精度な金型の設計をめざして、開発部門の方とディスカッションを重ねながら仕事を進めていきました。

2012年からは生産技術部モールド技術グループへ異動。班長的なポジションで金型の設計自動化や技術開発、プラスチックレンズ設計の中国移管などに携わりました。

その後、中国の深セン工場が閉鎖するタイミングで金型生産がOVNCに移管されることになり、来日したベトナムメンバーの技術教育や、ベトナムに出張して金型の製作ができる体制を整える業務に従事。金型設計を手がけるホーチミン市の事務所設立に関わり、オフショア開発(※)の座組みの整備も行うなど、いまになって振り返ればOVNCに赴任するための土壌を築いた時期だったと思います。

技術開発の一部または全てを海外リソースを活用して行う開発手法のこと

技術を教えるのは難しい印象がありますが、どのような工夫をされていますか。

明確な根拠と理論に基づくアプローチを重視しています。これまでの金型設計では、「この部分はこう作ればうまくいく」など、過去の経験則が疑われることなく受け入れられていました。それが私には根拠が置き去りにされているように思え、より良い方法はないかと考えるようになったんです。

たしかに、すべての要素を数値化できるわけではありません。しかし、根拠の明示や論理的な説明、できる限りの数値化は、組織が成長する上で不可欠だと考えています。班長時代には外部の文献なども参照しながら資料を作成し、メンバーに展開したことも。

キャリアを通じて、常に製造現場に近い環境で技術や技能を学びながら、生産に必要な技術や技能の数値化・理論化に取り組んできました。そうすることで、オリンパスが誇る高い技術力を未来につなげることにも貢献できると思っています。

未曾有の状況でリーダーシップを発揮し、大規模なプロジェクトを主導したことが学びに

印象に残っている出来事を教えてください。

2021年、映像事業の分社化にともない、製造エリアを大規模に変更するプロジェクトを主導したときのことが印象に残っています。OVNCでは医療製品以外にデジタルカメラも製造していましたが、映像事業が分社化されたことを受け、設備の移動とメンバーの配置換えを約2年かけて行いました。

ちょうどコロナ禍と重なってしまったことから、梱包や配送を依頼した業者さんとの日程調整に苦労したのを覚えています。また、新型コロナウイルス感染症に罹患してしばらく出社できないメンバーが続出するなど、安定した体制を維持するのが難しい状況でした。

引越しの全体スケジュールを引いてタスクを割り振る立場として、いつ、どの設備を運ぶべきかを運搬業者の方と考えたり、工事業者さんと移転先のレイアウトを決めたり。さらに、一定期間製造ラインを止める必要があるため、それを見越した生産スケジュールを現場と相談して事前にプランニングするなど、考えることや決めることが膨大で、とても忙しい日々でした。

幸いだったのは、社内に物流に詳しいメンバーがいて助言をもらえたことです。また、それまで業務で関わることが少なかったメンバーとも話す機会ができたことは、良い経験になったと思います。

現地のメンバーとコミュニケーションする上で、気をつけていることはありますか。

赴任するまで「ベトナムでは、キャリアアップをめざして職場をどんどん変えていく人が多い」という印象を持っていました。しかし実際は、日本人と同じくらい職場での人間関係や居心地の良さを重視している方が多く、集団意識が強いと感じます。分社化の際には、「仲間と離れたくない」「ずっと働いてきた工場から移りたくない」という声も上がり、そうした想いにも丁寧に対応してきました。

また、ベトナムの方はPDCAサイクルで言うところの「Do」をとても重視していて、「まずはとにかくやってみよう」という姿勢を持っています。良く言えば行動力がある一方で、意思決定や行動の根拠を示したり、計画的に物事を進めたりすることが苦手なメンバーが少なくありません。とくにリーダー層のメンバーにはそうした資質が必要ですから、「目的を明確にしよう」「資料ではなく口頭説明でもいいから、一度私に相談した上で行動してほしい」と伝えています。

ただ、彼ら彼女らにはとてもやる気があり、実行力も持ち合わせています。モチベーションを高めてもらうよう、良い成果が出たときなどはしっかりと称賛するよう心がけています。

「OVNCにこんな種を蒔いた」と胸を張って言えるような成果を

どんなところに、仕事の魅力ややりがいを感じますか。

金型設計の業務では、新しい構造や製造方法を考案することが求められます。難しい反面、自由度が高く、自分のアイデアを反映しやすい点にやりがいを感じながら取り組んできました。また、先輩たちから伝承されてきたノウハウを数値化し、可視化するのも挑戦しがいのある仕事です。

現職のマネージャー業務においては、自分の考えた計画や取り組みがメンバーに受け入れられ、その結果として良い成果を出せた際に大きな手ごたえを感じます。たとえば、以前にこんなことがありました。

分社化にともなうコスト増加に対処するため、原価低減に向けた対策をチームで議論し、各メンバーに役割を割り当てたときのことです。プロジェクトの重要性と期待される効果をメンバーに丁寧に説明したところ、みんなが使命感を持って熱心に取り組んでくれました。

中でも、金型成形のサイクルタイム短縮をめざした作業改善は効果的で、次に向けて顕著な成果が出ました。チーム全員が一丸となって取り組み、良い結果を実感できたことは、マネージャーとして非常に充実した経験になりました。

今後の展望を教えてください。

ベトナムへの赴任時、当時の上司から「数年後に日本へ戻ったとき、『自分はOVNCにこんな種を蒔いてきた』と胸を張って言えるような仕事をしてきてほしい」と励まされたことが強く印象に残っています。それをかなえるためにも、IoTを活用したデジタル化を含む新たな取り組みを推進していきたいと考えています。

現在準備中のプロジェクトのひとつに、デジタルツールを使用した金型の温度監視があります。このツールを利用してデータを集積することにより、製品立ち上げにおける生産条件の最適化や、生産過程におけるトラブル予測とその対策が可能になると期待しています。製品デザインの初期段階から特定の問題を予測し、最適な形状の提案もできるようになるかもしれません。

また、生産現場の業務管理の電子化などにも積極的に取り組み、日本に先駆けてデジタル化を実現できたらと考えています。

分社化以降、私は原価管理業務も担当しており、現在は財務経理部門と緊密にコミュニケーションを取りながら、工場の財務フローを学んでいます。工場経営の視点を持った技術者は社内では稀な存在なので、自身の経験とスキルを活かし、将来的には社内外のハブのような役割を果たし、組織に貢献したいと考えています。

記載内容は2023年11月時点のものです

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