ケニアと日本の懸け橋に‐オリンパスが支援する内視鏡医育成プロジェクト

「日本は内視鏡技術の最前線をいく国として、世界中の医療従事者にとって重要な学びの場となっています」日本で研修を受けたケニア人医師の言葉です。オリンパスは、日本の政府や医療機関と連携して、ケニアの内視鏡医の育成を支援するプロジェクトを実施しています。

内視鏡検査ができる医師が不足しているケニア

アフリカの東部にあるケニアは、経済発展が進み、消化器系のがんなどが増えつつある一方で、内視鏡の検査は一般的ではありません。内視鏡の機器も、それを適切に扱える医師も不足しているのが実情です。「日本では、がんの早期発見・早期治療を可能にする技術が普及しています。ケニアはまだ発展途上の段階ですが、がんに罹る方が増加傾向にある中で、医師がそのような技術や知識を修得していく機会が求められています。」オリンパスのガバメントアフェアーズ 国際協力担当の渡辺幸一郎さんは、そう指摘します。

そのような課題に対応するため、オリンパスは日本政府支援による国際医療協力事業を開始。2023年から3年計画で、ケニアの医師たちに向けた内視鏡の研修事業に取り組んでいます。オリンパスは研修全体の企画、運営、コーディネーションを担当しており、東京のスタッフと現地側スタッフが連携してサポートを続けています。「ケニアは、アフリカの中で経済発展が進む国の一つです。現地を実際に訪れて、成長段階にあることを肌で感じました。その一方で、生活水準の向上に伴い、がんなどの非感染性疾患の比率が増加しています。特に食道がんや大腸がんの罹患率が高いことから、内視鏡検査の人材育成支援の必要性が大きいと考えました」(渡辺さん)

ケニアと日本で研修を実施、未来への希望を見出す

このプロジェクトでは、オリンパスと九州大学病院の国際医療部が連携し、ケニア国内の病院から集まった医師たちに内視鏡に関する技術研修を実施しています。

まずオンラインで、日本の内視鏡診療の最新状況などについて講義を行い、その後、日本の医師がケニアの首都ナイロビの病院に赴いて、現地で講義と臨床指導を行ないました。臨床指導では、消化管の上部と下部の内視鏡検査の実技指導を実施。基礎的な診断技術や内視鏡の操作方法を学びました。続いて、ケニアの医師たちが来日し、九州大学病院で約3週間にわたって、内視鏡を用いた検査や治療の見学、技術指導を受けました。そこでは、内視鏡検査や内視鏡的治療のさまざまな症例を見学したり、シミュレーターモデルを用いた実技指導を受けたりして、実践的な知識やスキルの習得に努めました。

今回研修に参加したケニア人医師の一人、ブランドン・オドゥア医師はこう語ります。「内視鏡検査とは何かということや、診断と治療の両面で内視鏡検査がどれだけ重要であるかということを学ぶことができました。ここで得たスキルや知識を母国の同僚に伝える絶好の機会となりました」

ケニアの医師たちにとって、日本の医療現場を直接この目で見たことは貴重な体験となりました。「ケニアでは、医師でさえも『がんの早期発見は難しい』という認識がまだ強いのですが、日本の医師たちが本当に早い段階のがんを発見するのを目の当たりにして、『自分たちもできるかも』と希望を持っていただけたようです」(渡辺さん)

日本の医療現場で実感した「チーム医療」のすばらしさ

「内視鏡の技術を高め、患者さんへのケアの質を向上させたい」という強い想いを抱いて研修に参加したオドゥア医師をはじめ、ケニアの医師たちは非常に前向きな姿勢でトレーニングを受けています。

彼らが日本での現場研修で特に感銘を受けたのは、日本の医療機関の「チーム医療」の充実ぶりです。医師と医療スタッフがチームで一体となって取り組み、明確なプロセスに沿って効率的に動いている姿勢を見て、「専門を超えた医師同士の連携や、医師と医療スタッフの協力体制がすばらしい」と感心していました。

「ケニアでは医療従事者がまだ不足しており、日本のような高度な医療チームを組むのは難しいのが現状ですが、日本での研修を通してその重要性を実感していただけたようです。研修後、『自分たちがリードして、自分の国の医療を良くしていきたい』と力強く語ってくれる医師もいました。」(渡辺さん)

医療従事者が技術や知識の習得に熱心なのは万国共通

今回の研修の成果はすでに現れています。研修に参加した医師の一人から「今回学んだ方法で早期のがんを発見できた」という報告が届いたのです。「さっそく新しい技術が定着しているとわかり、非常にうれしく思いました」(渡辺さん)また、渡辺さんは、親しくなったケニア人医師の一人から「日本語の医学書も読んで勉強したい」と意欲的な声ももらいました。

ケニアと日本。医療環境は大きく異なりますが、「医療従事者の方が、知識や技術の習得に熱心なのはどの国でも共通ですね」と渡辺さんは語ります。「国や文化が違っても、患者さんのためにという気持ちは皆同じです。それぞれ何が違うかをお互いに理解したうえで、どこまで一緒に歩み寄れるかを見極めながら、活動を長く続けていくことが重要だと考えています」

このプロジェクトは、厚生労働省から委託を受けた令和6年度の医療技術等国際展開推進事業であり、国立研究開発法人国際医療研究センターが主体となって実施しています。

2025年2月の取材に基づき作成しています。患者さんの状態や感じ方、治療内容は個人差があります。診断、治療については医師にご相談ください。