学ぼう!内視鏡とは?
1. 医療用内視鏡の役割とは?
口から入った食べ物は、胃で消化されたあと、小腸などで栄養が吸収され、大腸で水分が吸収されて、便になって肛門から出ます。
もし、おなかの中の胃や大腸に病気があったら、外からは見ることができないと思いますが、みなさんはどうやって見ればよいと思いますか?また、病気の部分をどうやって取り除いたりすると良いと思いますか?
医師がみなさんの口から直接おなかの中をのぞいたり、口からおなかの中に手を入れて病気の部分を取り除いたりすることはできませんよね!
そこで、おなかを切って開かずに、おなかの中の病気の部分を見たり(検査)、病気の部分を取り除く(治療)ために、医師が使う道具が医療用の「内視鏡」です。内視鏡は、医師の“目”や“手”の代わりとして使われる医療機器です。
2. 内視鏡の種類
医療用の内視鏡には、さまざまな種類があります。口や鼻から入れて胃などの検査・治療に使う「上部消化管内視鏡」や、肛門から入れて大腸の検査・治療に使う「大腸内視鏡」などがあります。
3. がんの早期発見・早期治療の大切さ
さて、ここでは、「がん」という病気について少しお話します。がんは、放っておくと病気が進み、体のほかの場所に広がって、命を失うこともあるこわい病気です。がんは、喫煙や食生活、運動などの生活習慣と深いかかわりがあると言われています。禁煙や食生活の見直し、運動不足の解消など、生活習慣の改善はがんの予防に有効だと考えられていますが、それだけでは全てのがんを予防することはできません。
また、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの5つのがんは、特定の検診で早く発見し早く治療することによって、死亡率の低下につながることがわかっています。体に良い生活習慣とともに、検診による「早期発見・早期治療」がとても大切です。おなかの中を見ることができる内視鏡は、医師が胃がんや大腸がんを早く発見し治療することに役立っています。
進行度による5年生存率の違い
このように「がんの早期発見・早期治療」に役立っている内視鏡ですが、現在のような形になるまでには、さまざまな創意工夫が必要でした。
それでは次に、内視鏡開発の歴史について見ていきましょう。
4. 内視鏡開発の歴史 ― 人の、おなかの中を見る取り組み ―
1868年、ドイツの医師が大道芸人に真っ直ぐな金属管をのんでもらい、世界で初めて胃の中を見ました。この金属管は「胃鏡」と呼ばれ、日本にも入ってきましたが、飲み込むにはたいへんな苦痛をともなうため、広まりませんでした。
5. オリンパスが「胃カメラ」を世界で初めて実用化
1949年、当時からカメラを作っていたオリンパスは、日本のある医者から「おなかを切り開かずに胃の中を撮影できる小さなカメラを作ってくれないか」と、頼まれました。この頃の日本では“胃がん”で亡くなる方が多くいたため、胃がんを早く見つけて治療したいという思いがあったからです。
オリンパスは、体の中に入れる部品を小さくしたり、柔らかくしたりするなど、研究や実験を繰り返し行いました。そうしてようやく1950年に、世界で初めて胃の中を撮影できる「胃カメラ」の実用化に成功しました。
胃カメラには、飲み込む先端部にカメラのレンズとフラッシュがあり、撮影した画像を記録するフィルムというものが入っています。おなかの外側に出ている操作部でシャッターを押して胃の中を撮影します。フィルムに撮影した画像を記録し、検査のあとでフィルムを現像※すると、胃の中の様子を確認することができました。
※ 現像とは:撮影した画像を記録したフィルムを薬品に浸すことにより、撮影したものの「像」を浮び「現す」こと。乾燥などさせた後、写真ができあがる。
6. 「ファイバースコープ」の普及
1960年代になると、グラスファイバーという材料を使った「ファイバースコープ※」が登場しました。グラスファイバーとは、柔らかく曲がる細長いレンズのような役割をするガラス繊維で、一端から入射した光を反対側のもう一端へ伝える性質があります。そのグラスファイバーを複数束ねて使うことにより、ファイバースコープでは、スコープの先端でとらえた胃の中の状態を、反対側のもう一端で見ることができます。このファイバースコープによって、医者は胃の中を検査のその場ですぐにのぞいて確認することができるようになりました。
※ スコープとは:細長い形をしており、先端をおなかの中に入れ、その反対側の一端でおなかの中の様子を見ることができるもの。
7. 「ビデオスコープ」の普及
1980年代には、電荷結像素子CCDという超小型部品を使ったビデオカメラをスコープに組み込んだ「ビデオスコープ」が登場しました。このビデオスコープが、現在の内視鏡システムです。
ビデオスコープはスコープの先端部にあるビデオカメラがとらえたおなかの中の映像をモニターに映し出すことができます。これにより、それまでは医師一人で見ていたおなかの中の状態を、複数の医師や看護師が同時に見ることができるようになり、より正確に病気の診断や治療を行えるようになりました。
8. 内視鏡システムの構成
内視鏡は、さまざまな装置を組み合わせて作られています。このシステムでは、まず、おなかの中に入れるスコープの先端部で撮影した画像を、ビデオプロセッサーというもので見やすく処理して、モニターに映し出します。
おなかの中は暗いので、光源装置というものを使って、スコープの先端から光を出しておなかの中を明るく照らします。
システムの説明
また、病気の部分を取り除いたりするために内視鏡のスコープと組み合わせて使う「処置具」という道具があります。
スコープの中には「鉗子チャンネル」というトンネルのような部分があり、そこに処置具を通して使います。処置具には使い方に合わせて、いろいろな種類があります。
スコープの説明
- 光源装置にスコープを接続するためのコネクター
- スコープ先端の向きを手元で操作するためのアングルノブ
- スコープの中の鉗子チャンネルに処置具を入れるための鉗子口(入口)
- おなかの中に入れて中の状態を見る先端部
スコープ先端部の説明
- おなかの中を見るための対物レンズ
- おなかの中を見やすくするためにおなかをふくらませる空気を送り出したり、おなかの中で対物レンズの汚れを取り除く水を送り出したりするためのノズル
- 暗いおなかの中を照らすためのライトガイド
- 鉗子チャネルを通って処置具が出てくる鉗子口(出口)
処置具・鉗子口の説明
スコープの操作部にある鉗子口(入口)から入れた処置具は、鉗子チャンネルを通って、スコープ先端部の鉗子口(出口)から出てきます。
さまざまな処置具の種類
高周波スネア:
胃や大腸にできた病気の部分に輪のようなスネアを引っかけて絞り取り治療します。
生検鉗子:
胃や大腸の病気の部分や病気かもしれない部分をはさんで取ってくるために使います。
高周波ナイフ:
胃や大腸にできた病気の部分を切って治療します。
バスケット鉗子:
胃や大腸にある異物を取ってくるための処置具です。
注射針:
病気の部分などに直接注射できます。
9. 新技術NBI(Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)
次に、「NBI(Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)」という特殊な光を用いたオリンパスの最新技術をご紹介します。みなさんが見ている太陽からの光は、“白色光”という無色透明の光に見えています。しかし実際は、光の三原色と呼ばれる“赤・緑・青”の光が、混ざり合って透明に見えています。
無色透明の光(白色光)が何らかの作用で屈折すると、幾つかの色に分類されます。雨上がりの空で、太陽の光が水滴により屈折して見える“虹”では、幾つかの色の光を見ることができます。
さて、内視鏡もふつうは“赤・青・緑”の光をデジタル処理してモニターに表示していますが、ここで紹介するNBI(Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)という最新技術では“青・緑”の特定の波長の光だけを使用します。
NBIの特定の光を胃や大腸などの表面に当てると通常光では見えにくかった毛細血管などの集まりがより見やすく表示されます。がんは血管を通じて栄養を得るため、がんの周りに多くの血管が集まりやすくなると考えられています。NBIは、そのような血管の集まりを見やすくすることで検査をする医師をサポートし、がんなどの早期発見に役立てられています。
このように、内視鏡は日々進化し続けています。これからも、医師がより早く病気を発見したり治療したりするお手伝いができるよう、みなさんの健康維持のためにオリンパスもさまざまな研究開発を続け、努力してまいります。