消化器内視鏡の出張検査の支援を通じて
インドの医療水準向上に貢献

2024年4月

フォーカスエリア 1: 医療機会の幅広い提供およびアウトカムの向上

世界最多の人口14億人を有する大国インド。急激に経済発展が進むなかで、がんの検診や治療のインフラが圧倒的に不足している現状があります。その課題解決の一端を担おうと始まったのが、オリンパスの内視鏡検査装置を車に乗せて小さな村々を巡る、出張検査プログラムです。そこで見えた確かな成果、そして今後目指す壮大な展開について、インドにおける医療事業責任者が語ります。

Manish Kumar

Olympus Medical Systems India 医療事業責任者
2010年に消化器内科呼吸器内科領域のプロダクトマネージャーとしてオリンパスに入社。その後、マーケティングマネージャー、営業責任者を経て、2020年から現職。

Q. インドにおけるがんの検診や治療の状況について教えてください。

A. 施設、専門医ともに不足していて、がんが進行してからの検査になるケースも多いです。

人口10万人あたりの内視鏡医の数は、日本が28.2人で、アメリカが4.7人です。それに対して、インドはたった0.7人*1。この数字が、インドにおけるがん治療の状況を物語っているかもしれません。
インドでは、口腔がん、食道がん、胃がんに罹患してしまう方が多く、がん罹患者数の約35%を占めています。また人口の増加と経済発展による生活の変化などで、今後がんの罹患数は増えることが予想されます。一般的に、 がん治療は、定期的な検診による早期の発見と治療が重要といわれています。それにも関わらず、インドではがん検診を行う施設が少なく、検査や治療を行う専門医の数も不足しています。
したがって農村部に住む人々は、検査を受けるのに片道7-8時間もの移動が必要なことも珍しくありません。そもそも、検査の存在自体が、あまり認知されていません。そうした背景から、何か体に不調があってもアーユルヴェーダなどの民間療法のみで様子を見てしまい、症状が悪化してようやく検査を受けるパターンが多いのです。
その様な状況もあり、検査でがんと診断される患者の60-80%は、すでにがんが進行した状態にあります。がん患者の生存率も先進国より低く、例えば食道がん患者の5年生存率は、日本が47.8%*2であるのに対し、インドでは約10.8%*3にとどまります。
その様な中でオリンパスは、現地の学会や病院と連携し、内視鏡機器のトレーニング機会の提供などを通して内視鏡医の育成を支援しています。ただ、1人の医師が内視鏡専門医となるには、10年以上の年数が必要です。そこで当社が、よりダイレクトな解決策の一つとして3年前から取り組み始めたのが、内視鏡検査を出張で行うプロジェクトです。

*1 一般公表データよりオリンパス作成

*2 国立研究開発法人国立がん研究センター 院内がん登録生存率集計 がん情報サービス https://hbcr-survival.ganjoho.jp/graph?year=2014-2015&elapsed=5&type=c10#h-title(参照2024年3月15日)

*3 World Health Organization. (n.d.). GCO - Observed survival (%), 5-year, cases diagnosed 2008–2012: https://gco.iarc.fr/survival/survcan/dataviz/table?survival=5&populations=0&cancers=60

Q. 内視鏡の出張検査プログラムとは、どのような内容なのでしょうか?

A. オリンパスの内視鏡検査装置を車に積み、100km離れた村々へ医師たちが訪れます。

プログラムは、アクセスの問題などから検査がなかなか叶わない方々に内視鏡検査を行いたいと思う病院、あるいは、かねてからオリンパスがこうした社会課題の解決について意見交換をしてきた医療機関との協業で行います。病院はその装置を載せるバン(車)と通信機材、検査に携わる人員などを提供し、オリンパスが内視鏡検査装置を提供する形です。
すでに始まっている活動の一つが、ハイデラバードの大手医療機関、Asian Institute of Gastroenterology(AIG)との取り組みです。こちらでは月に1~2回、拠点となる病院から100kmほど離れたところにある村々を回り、内視鏡検査を行っています。出張先では、内視鏡検査だけでなく基本的な血液検査も行っています。それらの検査データは衛星通信を使って当日中にハイデラバードのAIG本院へ送られ、診断されます。そして翌日、診断に基づいて、現地に出張している医師が治療薬を処方する流れです。
プログラムのなかで驚いたのが、検査を受けた人の60%に、胃潰瘍、静脈瘤、悪性腫瘍など、何らかの病状が見つかったことです。事前検査でスクリーニングを経た患者さんに対して内視鏡検査を行ったことが一番の理由だと思われますが、それにしてもあまりに高い数字です。
別の地域でプログラムを実施した病院、Galaxy Hospital(マハーラーシュトラ州ナンデッド)からは、「内視鏡バンを使えば、人々が内視鏡検査や合理的な医療という概念すら知らないような場所にも行くことができ、必要な患者さんに検査を提供することができます。私たちは今年、このバンで9,000キロ以上を走り、多くの命を救いました。また検査だけでなく、内視鏡検査の重要性について、地域の開業医の先生方への教育活動も実施しています。内視鏡検査に対する意識啓発という点で、この取り組みは今後何年にもわたって大きなインパクトを与えることになると確信しています。」との声をいただきました。


出張内視鏡検査の車


内視鏡検査の様子

Q. この取り組みを、今後どう発展させていきたいですか。

A. 今後2年で少なくとも20の病院と協業を目指します。

現在は、南部と中部の計4つの病院を拠点に、出張検査プログラムを展開しており、これまで2,000件以上の内視鏡検査が実施されました。過去2~3年にわたる活動から、こうしたインフラによって人々が迅速に検査を受けられるようになり、病院は患者を特定して早期にがんを発見できるようになることが明確になりました。
ただ、月に数回の出張では、訪れる回数や診られる人数にはどうしても限りがあります。このようなプログラムをきっかけに、出張地域の診療所が内視鏡検査を開始するモチベーションになったり、協業病院が出張先に、内視鏡検査ができる新しい診療所を設けるきっかけとなることも期待しています。
私たちは、今後2年間で少なくとも20の病院との新たな協業を目指しています。実現に向けて、このソリューションに携わる専門組織も2023年4月に組織化しました。すでに北部の3つの医療機関と新たに連携し、準備を進めています。
プログラムを拡大するにあたっては、協業する病院側やドクターのリソース問題などの課題もあります。彼らとしっかりコミュニケーションを図り、そうした課題にも向き合いながら、活動の目的に賛同してくれる仲間を増やしていきたいです。さらに出張検査を通して得た経験やデータ、ノウハウを生かしながら、将来的には、インドにおける国家レベルの検査プログラムの立ち上げにも、ぜひ貢献していきたいです。

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