際限のない改良要求に、とことん応えるためキーパーツは自らつくり出す
世の中にない医療用内視鏡や処置具をつくろうという信念を貫くため、必要な部品が市場になければ、材料開発から設備まで自前で開発してきました。
とにかく自分たちでつくり、問題を解決してはまたつくるという繰り返しにより、独自の製品をつくりあげ、世界規模で提供してきたのです。
製造現場には、キーパーツは自分たちでつくるという意欲がみなぎっています。それが他の追随を許さない内視鏡や処置具の技術を支えています。
内視鏡挿入に対する改良要求は尽きない
内視鏡の重要な機能として、患者さんへの負担を極力少なくし、患部へいかにスピーディーにアプローチできるかが挙げられます。消化管用内視鏡の場合には体内の長く曲がりくねった管腔(かんくう)に沿ってスムーズに挿入できることが必要になります。上部消化管用の内視鏡では、患者さんへの負担を少なくし挿入性を向上するために挿入部の細径化が必要となります。
また、大腸用の内視鏡では、単純に内視鏡を押し込むだけで挿入することは難しく、術者(ドクター)の挿入テクニックと内視鏡の性能の両方の向上があってはじめて大腸の深部まで挿入することが可能となるのです。
従って、挿入性向上に貢献するために、挿入部の細径化や、術者の挿入部に対する要求を実現することが、製造メーカーの役割であり苦労でもあります。
患者さんの負担を限りなく少なくし、かつ術者の操作性(曲げ、ひねり、押し引きなど)を向上させる挿入部を持った内視鏡が求められており、これに応えるための技術的挑戦は続きます。
どこにもないキーパーツは自分たちがつくる
オリンパスが内視鏡事業に着手した当初、内視鏡に必要な技術は設計・レンズ製造以外はまったく持ち合わせていませんでした。外部に発注しようにも内視鏡の部品をつくっているところなどなく、やってみようというところも少なかったのです。ほとんどのものは自前でつくる以外に手段がありません。こうして始まった技術開発は、困難の連続であったことは言うまでもありません。
しかし、だからこそ現地現物主義で対応できるという利点もあり、今日の製品になりました。グラスファイバーを束ねたイメージガイドファイバーやライトガイドファイバー、湾曲管や湾曲ゴム、複雑形状の先端部品、蛇管など、挿入部のキーパーツは自分たちでつくることにこだわり、貫いてきました。
キーパーツのひとつである内視鏡先端部の金属部品は、強い酸性の胃液に対して耐食性の高いステンレス鋼を使わざるを得ません。しかし、当時(1960年ごろ)は世の中でも微小部品のステンレス鋼に関する切削加工技術は確立しておらず、加工専門メーカーにも相談に乗ってもらえませんでした。鋼材の種類、切削工具の材質や刃先形状等が仕上げ精度に及ぼす影響を切削実験によりこつこつとデータとして蓄積し、ステンレス鋼の切削技術を確立してきたのです。
医療用内視鏡、消化器内視鏡スコープ
蛇管製作は当初、外部のメーカーに委託していました。とどまることがないドクターからの要望に応えるため、委託先に出向いては、製法の変更依頼を行ってきましたが、ドクターの使用実態を知らない委託先の対応は冷ややかでした。
最終ユーザーであるドクターの要望をくんで製品に反映できるのは、ユーザーの「生の声を聞いているオリンパスだけだ」、「外部に頼っていても良いものはできない」という思いから、委託先から部品を引き上げ、内製化をスタートしました。品質基準は自分たちで決め、その基準をクリアできる独自の工程をまさに試行錯誤で構築してきました。
挿入性に大きく影響する「樹脂の押し出し成型」は早い時期から内製化に着手し、試行錯誤を続けながら、あきらめずにトライして挿入性の改良を続けてきました。
1990年代前半には可撓(かとう)性連続変化蛇管(連続的に可撓性の変化をつけられる蛇管)を開発しました。さらに、2007年ごろには高伝達蛇管(手元側の操作をスムーズに先端側に伝達する蛇管)を開発し、挿入性向上に大きく貢献しました。現在もこの蛇管の改良に対する取り組みは続き、さらに飛躍的に挿入性の向上が期待される蛇管の開発にトライしています。
製品品質の安定化と低コスト化で顧客ニーズに応える
スコープ操作部、先端部
内視鏡や処置具は、微細な部品で高精度な組み立て技術が必要です。これまで、この組み立ては人手によって行われてきましたが、作業の細かさによる作業時間の長さや品質のバラツキは決して顧客のニーズに応えるものではありませんでした。
そこで、これまで培ったものづくりのノウハウ、技術を結集させ、自動化による課題の解決を図りました。
超音波スコープの画像を取り込むキーパーツである振動子ユニットでは、髪の毛より細い数百本の電線を極小ピッチで接合します。この作業の自動機を開発し、作業時間の短縮と不良ゼロを達成しました。
また処置具の代表的なディスポーザブル生検鉗子(かんし)や止血クリップでも、自社開発により全組み立て工程を自動化し、品質の安定化を実現しました。
ものづくりの心意気がやがて使命感になる
外科手術用エネルギーデバイス先端部
半世紀以上にわたる内視鏡開発の歴史。しかし、その製造技術はまだまだ完成されているとは考えていません。改良に次ぐ改良により、理想とする性能に近づき、なおかつどこにもないものを開発したいという気持ちは変わりません。
製造に携わる者は「開発(設計)部隊、ひいてはドクターをうならせる技術開発をしたい」という執念を持ち、今後も開発に取り組んでいくことでしょう。
「ものづくりは自分たちでやらないといけない」、「内視鏡や処置具を支える製造技術は自分たちの手によって発展・向上させていく必要がある」と、自負心にも似た使命感をいだいています。