1990年ごろから光学多層膜の内製化に向けた要素検討に着手し、試行錯誤の末に光学多層膜のコート技術を確立しました。
1990年代に入ると、生細胞研究分野で蛍光タンパクを使った生細胞の蛍光観察手法が確立しました。中でも、遺伝子治療などの基礎研究ではこの手法が多く用いられています。これにより詳細な遺伝子作用の解析が可能となり、研究手法も多様化してきました。細胞試料の蛍光をより鮮明に観察したいという研究者のニーズは、蛍光フィルターの性能向上を強く求める方向へと向かいました。
光学多層膜技術で研究者の多様なニーズに応える
遺伝子治療などの基礎研究では蛍光観察により多くの細胞研究が行われています。細胞試料を顕微鏡で鮮明に観察したいという研究者の多様なニーズに応えるためには、蛍光フィルターの性能向上が必要でした。
オリンパスでは、かつて製造を社外に頼っていた「蛍光フィルター」の内製化・高性能化に挑み、世界トップクラスの光学多層膜技術を確立しました。顕微鏡で培った光学多層膜技術は内視鏡、デジタルカメラへと伝えられ、社会に貢献する光学機器の実現を支えています。
光学フィルターとはガラスなどの基材に特定の波長の光だけを通す機能を付与したものです。さまざまな研究分野において、多種多様な光学フィルターが使われています。製法は数多くありますが、ガラス基材上に多層膜をコートしたものを光学多層膜フィルターといいます。
オリンパスでは創業以来、レンズ反射防止膜などの製造を通じてコート技術を蓄積してきました。一方で蛍光フィルターに必要な光学多層膜コートの技術は保有しておらず、かつては100%外部へ依存していました。
1990年ごろから光学多層膜の内製化に向けた要素検討に着手し、試行錯誤の末に光学多層膜のコート技術を確立しました。
1990年代に入ると、生細胞研究分野で蛍光タンパクを使った生細胞の蛍光観察手法が確立しました。中でも、遺伝子治療などの基礎研究ではこの手法が多く用いられています。これにより詳細な遺伝子作用の解析が可能となり、研究手法も多様化してきました。細胞試料の蛍光をより鮮明に観察したいという研究者のニーズは、蛍光フィルターの性能向上を強く求める方向へと向かいました。
生きた細胞をより明るい画像で観察するためには、蛍光だけを感度よく取り出せる100層以上もの光学多層膜を設けた蛍光フィルターをつくる必要がありました。※1
この蛍光フィルターは、それまでの内製化で培った蒸着と呼ばれるコート方法では実現できません。1990年代の終わり、より性能の良い蛍光フィルターの内製化を目指しイオンを用いる新しいコート手法の技術開発に着手しました。
加えて、少しでも早く工場へ技術を移管し、生産体制を整えるために、伊那工場(現・長野オリンパス)からも技術者が八王子の生産技術部門に集められました。生産技術と工場技術が一丸となって、新しい蛍光フィルターの製造技術開発を進めることとなったのです。
※1 100層以上の光学多層膜蛍光フィルター
超多層膜にすることで、より明るい蛍光観察が可能となる。
新しい蛍光フィルターの設計手法や製造時の条件など、検討項目は多岐にわたりました。技術者たちは、光学多層膜をコートしては評価し、結果を次のコートに反映させる実験を何度も繰り返しました。100層以上にもなる蛍光フィルターでは、設計通りの性能を出すために数ナノメートルの膜厚を正確に制御する必要があります。
またコート時間が長く、装置は一昼夜連続で稼働させる必要がありました。そのため技術者は装置に張り付いて稼働状態を監視しなくてはなりませんでした。装置が無事に稼働しても、小さなゴミの付着で不良となり、一昼夜の活動がムダになることもありました。
彼らは地道に問題の原因を追究して製造ノウハウを蓄積していきました。開発スピードアップのため、光学多層膜のコート中に膜厚評価ができる装置も独自開発しました。
苦難の検討を経て、蛍光画像を鮮明に観察するための蛍光フィルターの製造技術を確立したのです。
今では、研究者個々のニーズに応える特注蛍光フィルターの設計から製造まで、製造部門が一貫して行っています。こうして高品質な蛍光フィルターをスピーディーに提供できるようになりました。オリンパスの蛍光フィルターは世界トップクラスの性能を誇り、生細胞研究分野の著名な研究者からも高く評価されています。
生細胞研究は、ノーベル医学・生理学賞を受賞したiPS細胞作製法の発見などに貢献し、次世代医療を加速させています。さらに光学多層膜コート技術は、顕微鏡以外の製品にも水平展開されています。
がんを早期発見・治療するために、医療用内視鏡による観察画像の高精度化が求められています。がんにつながる血管を見えやすくする波長の光を取り出す「光学多層膜フィルター」を開発し、2006年に狭帯域光観察(NBI:Narrow Band Imaging)※2や蛍光観察(AFI:Auto Fluorescence Imaging)を実現に導きました。
※2 狭帯域光観察NBI
特定の波長の幅が狭い2色の光で、患部を観察する事で、毛細血管や粘膜の微小な模様が強調して表示される。
この狭帯域光観察を用いた内視鏡システムは、早期がん診断の精度向上に貢献しているとして、2011年度「全国発明表彰」において「内閣総理大臣賞」を受賞するなど、画期的な製品となりました。
また、デジタルカメラでは、従来の半分までレンズの反射率を低減した反射防止膜ZERO(Zuiko Extra-low Reflection Optical)コーティングが開発された。※3本コーティングは、2011年発売の交換レンズに搭載された。2012年度「カメラグランプリ」において、「カメラ記者クラブ賞」を受賞するなど、その性能は高い評価を得ています。
※3 ZEROコーティングを搭載した交換レンズ(M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8)
蛍光フィルターをはじめ、光学多層膜の製造技術は、顕微鏡、内視鏡、デジタルカメラといった光学機器には不可欠です。技術は一朝一夕に確立するものではありません。各分野の多様なニーズに応えることがオリンパスの光学多層膜技術を発展させる原動力となっています。
世界のトップであり続けるために、これからも光学多層膜技術を磨き続けていくことにより、あらゆる要望に応えていきます。